だれでも証明が書ける

だれでも証明が書ける―眞理子先生の数学ブートキャンプ

だれでも証明が書ける―眞理子先生の数学ブートキャンプ

昔からお世話になっている松井先生の新刊.「証明の書き方」に絞った本.「解答のない練習問題」をたくさん含んでいるところが素晴らしい.

しかし,内容は難しい,というか紛らわしい.もっと正確にいえば,私の読後感によると第2章だけ難しい.ここが突破できないと,この本のメインである「『使える性質』―『導く性質』の表」までたどりつけない.しかも,この眞理子先生はクセモノで,その強烈なキャラクターのために,この人の言うことを読者がどれだけ信用していいか判断ができない.例えば,「PかQが成り立つ」というのは曖昧だけど「PまたはQが成り立つ」とは普段言わないから数学の用語だと分かる (10〜11ページ),っていうのはどう捉えればいいんだろうか.

より難しいのは「単にP(x)と書かれた命題の真偽は,[∀x, P(x)] という命題の真偽と一致することにします」(36ページ) としてしまったために,その後でP(x)のようなものが出てきたとき,いちいちこれは∀x, P(x)なのかどうなのかを考えなくてはならなくなってしまったことである.そもそもP(x)という記法で命題を表すことが不正確なのだから (これは「PかQが成り立つ」というのが曖昧ということよりも深刻な問題である),そのような記法を認めない立場を貫けば紛らわしくなかったのに,と思う.述語の扱いについて,脚注でいろいろと議論しているが,それは「P(x)という記法で命題を表す」という立場を取らなければ湧きあがらない問題も多かったように思う.その箇所の扱いは残念だと感じた.

その難しく,紛らわしい2章を過ぎれば,または,2章を無視して進めば,ようやくメインを味わうことができて,証明の書き方を学ぶことができる.示すべき言明から「使える性質」と「導く性質」を抽出し,表として書く.そして,その表を操作することによって,証明の枠組を見通す.この本では表を操作するときに,いちいち新しい表を書きなおしているような印象を受けるが,実際はそうせず,表は1つだけにして,削除するものは横線で消し,付けくわえるものは欄の下に足していくのがよいと思う.そうすればかなりhandyだ.1つコメントすると「矛盾を導く」形の証明を書くときは,何と何が矛盾しているのか分かりにくいことが多いので,証明の最後に「矛盾」と書くだけではなくて,何と何が矛盾するのか書く方がよいと思う.

著者はあとがきの最後で「証明の書き方の指導法について,大学などで今後さらに議論されるべきだと感じている」と記しているが,私もそう思う.本書はそのような議論の端緒になっていきそうだ.