白と黒のとびら

読んでいて,これほど「やられた」と思った本は今までなかったかもしれない.オートマトン形式言語といった,私にとって研究上身近な題材ではあるが,それをこのような観点で見るという視点が私には全くなかった.新しい視点が得られたことと,それをこのように料理し,おもしろく楽しく紹介されたことについて,著者の能力を羨む気持ちにもなった.(私は他人を羨むということがめったにないけれども,このときはそういう気持ちになった.)

内容は,オートマトン形式言語に関する教科書的なものである.しかし,これがこの本では冒険ファンタジーのような形で紹介される.それは,数学を対話的に勉強していくといったものとは違い,主人公が自分で悩み,自分で考え,答えに辿りつく,という,つまり,数学を勉強する人,そして,研究する人の営みを見せている.卓越している点は,オートマトン形式言語の教科書に出てくる,ある種「無味乾燥」な内容を,オートマトンは白と黒のとびらを持つ部屋から構成される遺跡,形式言語 (文法) は詩として登場させて,冒険ファンタジーの世界観を形成しているところである.途中で何度か出てくる師のことばの端々には,研究とはどういう心掛けで行うものなのか,ということについて,私にとっては戒めや励ましのように聞こえる部分がある.

私はこの本で扱われている題材について,多くのことを知っているので理解がしやすかったのかもしれないが,そうでない人にとっては少々難しい内容なのかもしれない.しかし,そうであったとしても,主人公が悩みぬく様子や,主人公を取り巻くキャラクターとの関係は,中学生や高校生にもわくわくしながら楽しく読める内容になっているのではないかと思う.もちろん,オートマトン形式言語を勉強する大学生にも薦められる.

数学セミナー2013年12月号

出版社在庫はもうないそうです.ありがたい話です.
なので,書店に並んでいるものがすべてなので,まだご購入されてない方はお早めに.

Dagstuhl Seminar "Algorithm Engineering"

今週はDagstuhlに来ています.テーマは「アルゴリズム工学」で,私がなぜ招待されたのか若干不明確ですが,とにかく楽しいです.普段は理論系のセミナーでここにくるので,このような実践系のものは若干雰囲気が違いますが,参加者の持っている意識の方向が同じであることはよく分かります.
DIMACS Challengeや分野の方向性なども議論されていて,このような場で分野の行く末がある程度きまっていくのだな,という感覚もよく分かります.
いろいろと面白い講演はあるのですが,そういうのは私に直接聞いて下さい.

期末試験

無慈悲な採点が終わった.

  • 離散数学」は上と下の差が大きく,秀 (90点以上) が約28%,優が約15%,良が約6%,可が約13%,(未受験含めて) 不合格が約38%.母集団を試験を受けた人だけに限ると,秀が約36%,優が約18%,良が約8%,可が約16%,不可が約22%.
  • 一方,「最適化手法」はほとんど合格で,試験を受けた人だけでみると秀が約62%,優が約17%,良が約10%,可が約8%,不可が約3%.ただし,未受験は全体の25%ぐらい.

(8/18修正) 離散数学の計算が間違ってたので修正.