アルゴリズム・サイエンス:入り口からの超入門

読みました.
以下,書評というか個人的な感想です.

著者の浅野哲夫先生は私が何度となくお会いし,お世話になってる先生です.ちなみにアルゴリズム理論の分野では「浅野先生」というと浅野哲夫先生か,浅野孝夫先生か,もしくは,浅野泰仁先生を表わすのか分からなくなるため,フルネームでお呼びすることが多いです.


まず,この本で一番の読んでもらいたいところは「まえがき」です.こういう専門書の類は「まえがき」が非常に重要で,まえがきを読まずに本文を読み始めるのとまえがきを読んでから本文を読み始めるのとでは,理解が格段に違うでしょう.著者の気持ちをまえがきでまず知り,それに則って本文を読むべきです.まえがきだけなら本屋で立ち読みしても問題ないと思うので,そこだけでもお薦めです.

ただ,1つ気になるのは「素人」と「プロ」の違いをまえがきでも述べてますが,本文中の書かれ方を見ると少し素人を卑下してるように見えてしまいます.これは「素人」ということばの持つ語感のせいかもしれないですが,この「素人」ということばに高圧的な印象を受けてしまうところがあり,それは残念です.これは著者の本意ではないはずですから.

各章の内容は楽しく読むことができました.想定読者は高校生以上のようですが,高校での学習内容を前提にしているので高校生では難しいと思います.しかも高校で必修の「情報」を確実に学んでいるか,あるいはプログラミングの経験がないと難しいと思います.高校卒業した程度,つまり大学入学生ぐらいがちょうどよい対象読者だと感じます.

各章の終わりに「著者の独白」というコーナーがあり,そこにその章で著者が伝えたかったことが記されているのですが,ところどころ「?」と思ってしまうところがありました.例えば,最初の章は「一般化という意味においてコンピュータは電卓を凌駕している」ことを述べたかったようですが,どうもそのようには読めなかったです.私には「電卓という簡単な道具を用いて,『計算』とは何か考える導入を行なう」ような章に読めました.これはおそらくその章では特にコンピュータと電卓を比較するような場面が少なく,もっぱら電卓を用いてどのような計算が行なえるのか議論してるような印象を受けたからだと思います.もちろんそれはそれで楽しいのですが,著者の意図が私に伝わるようになっていなかったのは残念でした.

全体的にはお薦めの本です.今までにないタイプのアルゴリズム入門書だと思っています.「アルゴリズム」や「計算」についてもう一度勉強し直してみたいと思う人にもお薦めできる本だと思います.ところどころ用語の使い方が不鮮明な箇所もあるので,その点は批判的に読み進めてください.

計算幾何の章の最後に「日本では計算幾何学の若い研究者が十分には育っていないのが残念である」と書かれていて,私を名指しされてるような気もしましたので,気を引き締めて努力していきたいと思います.