誤信についてのコメント

さて,上で書いた「誤信」だけども,どうして人々はそのような間違いを犯してしまうんだろうか,と原因を探ってみる.

おそらく「単体法は端点最適解を発見する」という知識から出発してしまうからだと思う.単体法が端点最適解を発見することは正しいし,任意の線形計画問題は単体法によって解くことができる.しかし,単体法ははじめに端点最適解が存在するような問題に与えられた線形計画問題を変形するからうまくいくわけで,それをしなければ端点最適解の存在は保証されない.

単体法のためには,与えられた線形計画問題を等式標準形と呼ばれる形に変換し,その上でアルゴリズムを走らせる.等式標準形の線形計画問題は最適解を持つとき必ず端点最適解も持つ.そして,元の最適解(の1つ)が変換後の等式標準形の線形計画問題の(任意の)端点最適解から得られる.このようにして単体法は任意の線形計画問題に対するアルゴリズムとなるわけである.そして,そのような意味でこの2つの問題は「等価」であるといわれる.(より正確には,これよりも広い意味で等価であるといわれる.)

ここで厄介なものが「等価」ということばである.2つの問題は上で言った意味で等価ではあるが,片方で成り立つ定理がもう一方で成り立つとは限らない! 等価というと「2つの命題の等価性」を考えがちだけど,上で言っている意味での等価は「2つの命題が等価である」というときの等価と用法も意味も全く違う!

もう少し突っ込んでいうと,私が見た限り,線形計画法や最適化法を扱った書物でこの「等価性」をきちんと定義しているものを見たことがない.もちろん書物には様々な制約があるので,細かいことを端折ることはあると思う.なので,その分,読者の方が気をつけて曖昧な部分に対処していかないといけない.それが数学書の読み方なのだから.