アルゴリズミック・デザイン

アルゴリズミック・デザイン―建築・都市の新しい設計手法

アルゴリズミック・デザイン―建築・都市の新しい設計手法

建築においてアルゴリズム的思考が重要視されだしたことを知ったのは『10+1』で特集されたのを見たときだったと思います.学生だった頃はたまに『10+1』を買ったり,立ち読みしたりしてたのですが,最近は全然そういうことをしなくなって,特にアルゴリズム的思考の特集も表紙だけを目にして,中身は全く見てませんでした.自分に余裕がなくなってきてた気がします.ただ,その頃から建築の人々がどうしてアルゴリズムに興味が出てきたのか気になってました.

この本の副題は「建築・都市の新しい設計手法」となっていて,建築においてアルゴリズム的思考がどのように活かされていて,今後どのように発展していこうとしているかということを「展望篇」「作品篇」「技術篇」「研究篇」の4部構成で述べています.ここでいうアルゴリズム的思考はもちろん計算機の利用を念頭においているわけですが,従来のCADや構造計算のみに計算機を利用するのではなく,プログラムによって構造物を自動的に設計するようなことを考えています.音楽でいうと,シンセサイザとか打ち込みをするというような計算機の利用の仕方ではなくて,メロディーなどを自動生成するような雰囲気です.ただ,構造物や建造物が物理的に実現されるためには様々な物理法則や法律に従わなければならず,それは音楽や絵画ほど自由にはなれないわけです.しかし,そのように従わなければならないものがいくつかあるため,問題はより困難でチャレンジングなものになっている気がします.

作品篇を見ると,日本でも既にアルゴリズミック・デザインによる構造物がいくつかあるのだということに気づかされ,普段の風景に既に溶け込んでいるものの裏にそのような技術があるということに驚かされます.日本ではないですが,北京オリンピックの「鳥の巣」もアルゴリズミック・デザインの賜物なのだそうです.

技術篇を見ると,現在のアルゴリズミック・デザインの設計技術の核の1つに広い意味での「最適化」があることが分かります.上で書いたような従わなくてはならない法則や法律を制約条件として表現し,そのなかで何かの目的を最適化するというモデル化です.しかし,目的を陽に書き表すことが困難 (あるいは不可能) であるため,いわゆる「柔らかい最適化」をしたり,または,最適化によって得られたいくつかの代替案の中から決定をする,というようなことを行っているのが現状のようです.これはオペレーションズ・リサーチの現場とほとんど同じだと思います.

私自身は建築の人間ではなくて,アルゴリズムとか最適化の方の人なので,ついつい細かいところに目がいって,NP完全性や数理計画法に対する誤解がある部分を気にしてしまうのですが,このような方法論はまさに計算世界観だな,と思います.計算という手段がなければ思いつかなかった設計手法であり,それが実現していく様は面白く感じました.